日本美術と仲良くなりたい… 

日本美術にお近づきになれるのかどうかの記録です。

【自習】岸田劉生の「麗子像」はコワいと思って正解だった!

子どもの頃は、おとなになれば自然に日本美術を理解できるようになるだと思っていました。「ふむふむ、これはムニャムニャ。あれはムニャムニャ」というように。でも、なりません!(断言) おじさんおばさんといわれる年になっても、多くの日本美術の作品の前で睡眠術にかかります。やはり、日本美術に親しむには、基礎的な知識を持つことが必要なのです。

 

というわけで、本を買ってみました。
読書とは、他人の頭の中身を手っ取り早く自分のものにできる技!
活用しない手はない!
記念すべき最初の本はこれ。じゃじゃーん。

 いわきりなおと著「 日本美術マンガ おしえて北斎!」

amazon解説より~

将来立派な絵師になる夢をもつ高校1年生、岡倉てんこりん。
しかし、彼女はサボってばかりのクズだった。
そんな彼女の前に、「あんたの夢をかなえにきたでー」と「風神雷神屏風図」の風神と雷神があらわれた!
てんこりんの夢をかなえるために、風神と雷神が呼び出したのは、尾形光琳高橋由一歌川国芳伊藤若冲……など、個性豊かな日本美術の大スターたち!
「才能イコール練習量やで! 」
「なんかいいを大事にしろ! 」
「何もできない時ほどアウトプットするんや」
……など、時空を超えた「夢をかなえるための秘訣」のレッスンで、少しずつ夢に向けて歩み出した、てんこりん。美術部のライバル狩野カノンたちとともに、デッサン甲子園に挑むが……。
笑って、泣けて、ほんのり日本美術も学べる、エンターテインメントコミック。 
〈文字色変更はワタシ〉

 

……。これ、日本美術の本じゃないんじゃ……。 

いやいや、「ほんのり日本美術も学べる」と書いてあります。
挫折しないように、まずは簡単そうなものをチョイス!
  

確かにそれ大切ポイント! 自分を大きく見積もらない。

年をとって、自分のことを大きく見積もらなくなりました。です。
寝る前の小一時間で読了!
結論として、85%は自己啓発15%が日本美術といったところです。

自己啓発、楽しいよね。アドレナリンが出て。
でも、ワタシはもう長年生きてきているので(こんなアイコンだけど)、
もうタラタラ生きていくのでいいよ。

自己啓発の部分は、amazonの試し読みで目次を見れば、ほぼ内容がわかります。
その筋の猛者なら、目次だけでもやる気が出せるかも(ホントか?)。
で、肝心の日本美術の部分ですが、意外や意外(作者に失礼)、読んでよかった…!

 

以下、個人的「読んでよかった」ポイントつ!

1.高橋由一のことが少しわかりました!

高橋由一の有名な「鮭」は重要文化財ですが、これまでなんでこんなに評価されているのか、さっぱりわかりませんでした(辛気臭いし、油絵としてそこまでうまいと思えないし、なぜ鮭…!?)。しかし、2章(Lesson2 キタコレ!日本一有名なサーモン)を読んで、「なるほど」と思いました。「重要文化財」のラベルは、絵・単体の評価ではなく、あれやこれやひっくるめての評価なのですね。

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高橋由一「鮭」重要文化財 東京芸術大学 画像はWikipediaより拝借

2.宮崎駿の後期作品が理解できなくなった理由に納得がいきました!

未来少年コナン」の時代から、宮崎駿の作品が大好きだったのですが、「千と千尋の神隠し」を最後にその後の作品が、わたしには理解できなくなってしまいました。好きだったからこそかなしい…。でも4章(Lesson4 「いい絵」ってどんな絵なの?)を読んで、今まで目を通したどんな解説よりも腑に落ちました。それが正解かどうかはわかりませんが、わたしは合点。
宮崎駿が自身の作品について話していることも、「いったい何言ってるの…??」と、わからなくなっていましたが、「なるほど…」と理解できました。
あ、ちなみに、本の中で宮崎駿についてくどくど説明があるわけではありません。

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宮崎駿の作品でもっとも好きなのは「紅の豚」。イタリア語版、持っています。

3.岸田劉生の「麗子像」はコワくて正解なのだとわかりました!

昔、父方の祖母の家の壁に、新聞か雑誌から切り抜いた「麗子像」の切り抜きが飾ってあり、子ども心に「なんでこんな気味の悪い絵を飾ってるんだろう…」と思った記憶があります。その後も「麗子像」は、本などで何度も目にする機会がありましたが、重要文化財などという「立派な絵」を気持ち悪いなんて思ってはいけないのではないか、(それも、実際のモデルがいるわけだし)と思っていましたが、画家自らの「あえて」の不気味さなのだとわかりました。「ツメあとを残せ!」 なるほど。
しかし、おばあちゃんはなんで「麗子像」の絵を飾っていたんだろう…? 好きだったのかな…。まあ、好みはそれぞれ…。確かにパンチはある。ありすぎる。

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岸田劉生「麗子」重要文化財 東京国立博物館 画像は東京国立博物館サイトより拝借

 ほかにも、そもそも日本美術の素養がないので、狩野派の「粉本」など、細々した点で新たな発見がありました。狩野派は、今、わたしたちがイメージする芸術家の集団ではなく、西洋の美術工房や、アニメ制作会社に近いのかも。
リエーターの卵向けの自己啓発としてのストーリーもよくできていると思います(ラストの表現は賞味期限がありそうだけれど…)。1つ難点をあげるとすると、絵柄…。いわゆる「へたうま」系のマンガで、それはそれで味になっているのですが、ザクザクしたタッチが「勢いがある」ではなく、「雑」に見えるところが、時折つらい…。
しかし、そこを差し引いても、勉強になった、よい本でした。

 

注! 高橋由一の初期の油絵作品は「下手」、岸田劉生の「麗子像」は「怖っ」と表現されています。そういうのが不愉快な人は避けるべきでしょう。わたしなんかは「神秘的な微笑」(「麗子」東京国立博物館サイトより)などと表現されるよりは、その先の展開も含め、よほど理解しやすかったです。